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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6524号 判決 1997年5月16日

第一事件・第二事件原告

奧長有紀

第三事件原告

奧長修

第一事件被告

野口克子

ほか一名

第二事件・第三事件被告

土師一男

主文

一  第一事件被告野口克子は第一事件原告奥長有紀に対し、金三九万〇一〇〇円及びこれに対する平成四年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件被告新谷昌弘は第一事件原告奥長有紀に対し、金九五万三八九八円及びこれに対する平成五年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第二事件被告土師一男は第二事件原告奥長有紀に対し、金二三万五三一六円及びこれに対する平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  第三事件被告土師一男は第三事件原告奥長修に対し、金六一万三六四三円及びこれに対する平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  第一事件及び第二事件原告奥長有紀のその余の請求をいずれも棄却する。

六  第三事件原告奥長修のその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用は、第一事件ないし第三事件を通じこれを一〇分し、その七を第一事件及び第二事件原告奥長有紀、第三事件原告奥長修の、その一を第一事件被告野口克子の、その一を第一事件被告新谷昌弘の、その余を第二事件及び第三事件被告土師一男の各負担とする。

八  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件関係

1  第一事件被告野口克子は第一事件原告奥長有紀に対し、金四六四万六八四四円及びこれに対する平成四年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一事件被告新谷昌弘は第一事件原告奥長有紀に対し、金三五〇万五二四四円及びこれに対する平成五年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件関係

第二事件被告土師一男は第二事件原告奥長有紀に対し、金二五九万八八四四円及びこれに対する平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第三事件関係

第三事件被告土師一男は第三事件原告奥長修に対し、金七八万九八六五円及びこれに対する平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、時を異にした三度の交通事故に遭つた原告有紀が、第一事故の加害車両の運転者たる被告野口及び第二事故の加害車両の運転者たる被告新谷に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき損害の賠償を求め(第一事件)、第三事故の加害車両の運転者たる被告土師に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき損害の賠償を求め(第二事件)、また第三事故の被害車両の所有者たる原告修が民法七〇九条に基づき加害車両の運転者たる被告土師に対し物損の賠償を求めた(第三事件)事案である。なお、第一事件、第二事件は一部請求事件である。

一  争いのない事実等(明らかに争わない事実を含む)

1  第一事故の発生

(一) 日時 平成四年六月四日午後三時五〇分頃

(二) 場所 大阪市西区新町四―四―一先路上

(三) 関係車両 被告野口運転の普通乗用自動車(なにわ五五ふ一〇二号、以下「野口車」という)

原告有紀運転の普通乗用自動車(なにわ五〇き六三五一号、以下「第一原告車」という)

(四) 事故態様 被告車が第一原告車に追突した(以下「第一事故」という)。

2  第二事故の発生

(一) 日時 平成五年一二月一五日午後七時五分頃

(二) 場所 大阪市西区川口二―五先路上

(三) 関係車両 被告新谷運転の普通乗用自動車(和泉五二る八二一九号、以下「新谷車」という)

原告有紀運転の普通乗用自動車(なにわ五〇く五四七九号、以下「第二原告車」という)

(四) 事故態様 信号機のない交差点において被告車と第二原告車が出会い頭に衝突した(以下「第二事故」という)。

3  第三事故の発生

(一) 日時 平成六年七月八日午後一時三〇分頃

(二) 場所 大阪市西成区鶴見橋三―九―一八先路上

(三) 関係車両 被告土師運転の普通乗用自動車(なにわ三三ね一〇九八号、以下「土師車」という)

原告有紀運転の普通乗用自動車(なにわ四〇ゆ五二三五号、以下「第三原告車」という)

(四) 事故態様 信号機のある交差点において被告車と第三原告車が衝突した(以下「第三事故」という)。

4  被告野口の責任原因

被告野口には、第一事故の際、前方不注視の過失があつた。

5  被告新谷の責任原因

(一) 被告新谷は、新谷車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に当たる。

(二) 被告新谷には、第二事故の際、第二原告車の動静に注意を払わず、交差点に進入した過失があつた。

6  被告土師の責任原因

(一) 被告土師は、土師車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に当たる。

(二) 被告土師には、第三事故の際、ブレーキ操作を誤つた過失があつた。

7  損害の填補

原告有紀は、

(一) 第一事故後、被告野口及びその損害保険会社から三三万二五六〇円

(二) 第二事故後、被告新谷及びその損害保険会社から一一二万二二六九円

(三) 第三事故後、土師車の損害保険会社たる日本火災海上保険株式会社から七七万七四二〇円、労災から休業補償給付金として一一九万九三五八円の損害の填補を受けている。

二  争点

1  第二事故に関する過失相殺

(原告有紀の主張の要旨)

被告新谷は一時停止の規制に違反して交差点に進入した過失により第二事故を起こしたものであり、第二事故は被告新谷の全面的過失による事故である。

(被告新谷の主張の要旨)

第二事故は信号機のない交差点における出会い頭の事故であり、原告有紀にも二割程度の過失がある。

2  第三事故に関する過失相殺

(被告土師の主張の要旨)

原告有紀にも右折車たる土師車の動静に充分な注意を払わなかつた過失がある。原告修が原告有紀の弟であるところから、被害者側の過失として第三事件についても三割程度の過失相殺がなされるべきである。

3  原告有紀の損害額

(原告有紀の主張)

(一) 第一事故後の損害額 一一四万一六〇〇円

原告有紀は、第一事故によつて、事故日である平成四年六月四日から第二事故日である平成五年一二月一五日まで通院治療をなした。その間の損害額は以下のとおりである。

(1) 治療費 三三万二五六〇円

(但し、平成四年一一月一六日までの分)

(2) ポリネツク代 三三〇〇円

(3) 文書費 八〇〇円

(4) 通院交通費 三万七五〇〇円

(但し、駐車場代二五〇円×一五〇回)

(5) 慰謝料 一〇〇万円

(1)ないし(5)の合計一三七万四一六〇円から第二の一の7(一)の既払額三三万二五六〇円を差し引いた一〇四万一六〇〇円並びに(6)弁護士費用一〇万円の計一一四万一六〇〇円

(二) 第二事故後の損害額 九〇万六四〇〇円

原告有紀は、第二事故によつて、事故日である平成五年一二月一五日から第三事故日である平成六年七月八日まで通院治療をなした。その間の損害額は以下のとおりである。

(1) 治療費 六一万二八六一円

(2) 通院交通費(但しタクシー代) 二万〇九〇〇円

(3) 通院交通費 三万七五〇〇円

(但し、駐車場代二五〇円×一五〇回)

(4) 休業損害 四九万七四〇八円

(5) 慰謝料 七八万円

(1)ないし(5)の合計一九四万八六六九円から第二の一の7(二)の既払金一一二万二二六九円を差し引いた八二万六四〇〇円並びに(6)弁護士費用八万円の計九〇万六四〇〇円

(三) 第三事故後の損害額 二五九万八八四四円

原告有紀は、第三事故によつて、事故日である平成六年七月八日から通院治療をなし、その間の損害額は以下のとおりである。

(1) 入院雑費 九万四九〇〇円

(2) 通院交通費 五万六二五〇円

(但し、駐車場代二五〇円×二二五回)

(3) 休業損害 二三五万四四七二円

(4) 慰謝料 一八五万円

(1)ないし(4)の合計四三五万五六二二円から第二の一の7(三)の既払金一九七万六七七八円を差し引いた二三七万八八四四円並びに(5)弁護士費用二二万円の計二五九万八八四四円。

但し、原告有紀は現在も治療中であるため、右は平成八年六月二五日までの一部請求である。

(四) 各損害の重複

原告有紀は、第二事故当時、第一事故による傷害の治療中であり、また、第三事故当時は第一事故及び第二事故による傷害の治療中であつたから、被告野口による第一事故と相当因果関係がある損害は(一)ないし(三)の合計四六四万六八四四円であり、被告新谷による第二事故と相当因果関係がある損害は(二)(三)の合計三五〇万五二四四円であり、(二)(三)の金額の範囲では被告野口と被告新谷が連帯して賠償責任を負い、(三)の金額の範囲では被告野口、被告新谷、被告土師とが連帯して賠償責任を負う。

(五) 結語

よつて、原告有紀は被告野口に対しては金四六四万六八四四円及びこれに対する第一事故日である平成四年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求め、被告新谷に対しては金三五〇万五二四四円及びこれに対する第二事故日である平成五年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求め、被告土師に対しては金二五九万八八四四円及びこれに対する第三事故日である平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。

(被告野口の主張)

(一)の(1)は認めるが、その余の損害の主張は争う。

原告有紀の症状固定時期は平成四年一一月一六日である。

(被告新谷の主張)

(二)の(1)(4)は認めるが、その余の損害の主張は争う。

(被告土師の主張)

(一) 原告有紀には入院の必要性はない。症状固定時期は平成六年九月末日である。

(二) 原告有紀の自覚症状が最も大きい腰痛に関し、第三事故の約一か月前の平成六年六月一一日の時点での下肢伸展挙上テストの結果と、第三事故後の右テストの結果には大差がなく、第三事故により腰痛が悪化した事実は認められず、第三事故後の原告有紀の症状は第二事故による寄与度が大きいことを示している。更に原告有紀の優柔不断等の性格が治療の長期化に寄与しているから、大幅な減額がなされるべきである。

4  原告修の損害額

(原告修の主張)

原告修所有の第三原告車は第三事故により七八万九八六五円の修理代を要する損傷を蒙つた(乙三八)。

(被告土師の主張)

乙三八の見積書は原告有紀が勤務していた会社が、修理完了後、相当期間経過後に作成したものでその信用力が薄い。原告修の損害は甲一五号証と一六号証の中間値である五〇万二五二六円にとどまる。

第三争点に対する判断

一  争点1(第二事故に関する過失相殺)について

1  認定事実

証拠(丙一、二、原告有紀本人)によれば次の各事実を認めることができる。

(一) 第二事故は、別紙図面Ⅰのように、市街地(住宅街)を東西に延びる車道の幅員が約八・二メートルの道路と南北に延びる車道の幅員が約八・三メートルの道路が交差する十字型交差点において発生したものである。交差点に信号機はなく、東詰め及び西詰には一時停止線が設けられている。

東西道路を東進する車にとつて交差点付近における右方の見通し状況は不良であり、北進車から東進車への見通しもまた不良である。

(二) 被告新谷は、東西道路を東進し、別紙図面Ⅰの<1>(以下符号だけで示す)付近で前方遠くの信号機を見て、<2>において左方を見て、一時停止することなく進行し<3>に至つたところ、南北道路を北進してきた<ア>の第二原告車に気づき、急制動をかけたが及ばず<4>において、<イ>の第二原告車の左側面に新谷車前部を衝突させた。衝突後、新谷車は<5>に、第二原告車は<ウ>に停止した。

(三) 他方、原告有紀は、第二原告車を北進させ、<ア>付近に至つたとき、<3>の新谷車に気づき、急制動をかけたが及ばず、衝突に至つた。

2  判断

右認定事実によれば、第二事故は被告新谷が一時停止の規制があり見通しが悪い交差点であるにも拘わらず、一時停止を怠つたまま交差点に進入した過失によるところが大である。他方、原告有紀にも見通しが悪い交差点であるにも拘わらず、充分な減速をなさず、東進車の存在及び動静に注意を払わなかつた過失があつたことが認められる。右過失の内容を対比し、前記道路状況を加味して考えるとその過失割合は被告新谷が八に対し原告有紀が二であるとするのが相当である。

二  争点2(第三事故に関する過失相殺)について

1  認定事実

証拠(甲六ないし一〇、一二、原告有紀本人)によれば次の各事実を認めることができる。

(一) 第三事故は、別紙図面Ⅱのように、市街地を南北に延びる道路と東西に延びる道路によつてできた変形交差点において発生したものである。交差点は信号機によつて交通整理がなされている。

(二) 被告土師は、南北道路を北進し、交差点で右折すべく別紙図面<1>(以下符号だけで示す)付近で対面青信号を確認し、右折の合図を出し、<2>に進行して同地点で一時停止していたところ、ブレーキがゆるみ、<3>において南進してきた<ア>の第三原告車の右前部に土師車前部を衝突させた。衝突後、土師車は<4>に、原告車は、<イ>に停止した。

(三) 他方、原告有紀は、第三原告車で南北道路を時速約四〇キロメートルの速度で南進して、前進してきた土師車と衝突するに至つた。原告有紀は、衝突直前まで停車している土師車を認めていない。

2  判断

右認定事実によれば、第三事故の発生については、被告土師がブレーキ操作を誤つた過失によるところが大である。しかし、原告有紀にも土師車の動静に対する注視を怠つた過失があることが推認できる。右過失の内容を対比し、右折車対直進車の事故であることを考え併せると、その過失割合は被告土師の八に対し原告有紀が二とするのが相当である。

なお、原告修は原告有紀の弟ではあるが、身分上生活上一体の関係にあるといえる証拠はないから、原告有紀の過失は被害者側の過失とは言えず、第三事件については、被告土師の過失相殺の主張は理由がない。

三  争点3(原告有紀の損害額)について(本項以下の計算はいずれも円未満切捨)

1  認定事実

証拠(甲一ないし五、一七、乙五、丙三の1、四、丁一ないし六の各1、2、検丁一ないし五、原告有紀本人)によれば、次の各事実を認めることができる。

(一) 第一事故後の経緯(特に甲二、丁一ないし六の各の1、2)

第一事故は交差点において第一原告車が野口車に追突されたもので、第一原告車の後部の損傷は比較的軽微であつた。原告有紀(昭和四一年一月二四日生、当時二六歳)は、第一事故日である平成四年六月四日、自ら車を運転して、大野記念病院に赴いて診察を受け、頸部鈍痛及び背部痛を訴え、頸部捻挫、背部捻挫の診断を受けた。同月五日には、頸部に硬直が認められ、同月一三日には僧帽筋痛を訴えたが、通院中一貫して、レントゲン画像上及び神経学的異常所見は認められなかつた。同年六月の実通院日数は一三日、七月は四日、八月は三日、九月は二日、一〇月は一日であり、一一月一六日に診察を受けた際、背中に痛みがあつたものの、医師から、「痛みと仲良くしないと仕方がない。」と言われたこともあつて、その後、通院を中断していたが、平成五年二月一五日及び同月二二日上腹部痛を訴えて通院した後、再び通院を中断していた。平成五年六月二二日、野口車の損害保険会社であるAIUとの示談交渉が決裂した後、同月二三日、「二日前から再び痛みが出た。」ということで、通院を再開し、平成五年一二月一五日の第二事故に至るまで、通院していたが、理学療法が継続されただけで、カルテ上特段の記載はない。

(二) 第二事故後の経緯(特に甲二、三、乙五、丙三の1、四、原告有紀本人)

原告有紀(当時二七歳)は、第二事故による衝撃によつて、第一事故を上廻る衝撃を受け、第二事故日である平成五年一二月一五日、大野記念病院において、右腰部から背部にかけての痛みを訴え、頸部捻挫、腰背部打撲兼捻挫、右臀部打撲の診断を受けた。初診当時、意識は明瞭であり、レントゲン上骨折等異常は認められなかつた。翌一六日、背部に圧痛が認められ、一七日には頸部から腰部にかけての痛み、両手のしびれを訴えた。二頭筋、三頭筋腱反射は正常であつたが、ジヤクソンテスト及びスパーリングテストは、微妙な結果を示した。平成六年六月一一日施行の検査によると、下肢伸展挙上テストにおいて、右足が六〇度、左足は五〇度までしか挙上できず(正常値は九〇度)、握力は右八キログラム、左一〇キログラムであり、平成六年七月八日の第三事故直前まで、腰の痛みが継続していた。第三事故までの実通院日数は一五〇日以上である。

原告有紀は株式会社セントラルに勤務し、事務を中心とする仕事をしていたが、平成五年一二月一六日から平成六年二月二〇日まで休業している。

(三) 第三事故後の経緯(特に甲三、四、五、一七、原告有紀本人)

原告有紀(当時二八歳)は、第三事故による衝撃によつて、車体に体を打ちつけ、第二事故を上廻る衝撃を受けた。第三事故日である平成六年七月八日、大野記念病院において、頭部打撲、全身打撲、腰から胸背部挫傷の診断をうけたが、レントゲン画像上骨折等異常所見は認められなかつた。原告有紀は入院治療を希望したが、医師から、主治医が不在ということもあつて、自宅での安静を勧められて、自宅に戻つたが、腰の痛みは今までになく強く、普通に歩行することが困難となり、主治医の判断で、同月一一日経過観察のために一週間の予定で入院した。原告有紀は、同年九月二一日までの七三日間入院し、退院後少なくとも平成八年六月二五日まで通院している。平成六年九月二七日行われた下肢伸展挙上テストにおいて、右が六〇度、左が六〇度であり、同年一一月三〇日の下肢伸展挙上テストの測定では右五〇度、左六〇度であり、前記六月一一日の検査結果と大差はないが、原告有紀本人の腰の痛みの程度は第三事故直前までの腰の痛みより相当大きかつた。平成七年一月三一日行われた下肢伸展挙上テストにおいては左右とも七〇度であつた。

原告有紀は、通院中腰背部痛を訴え、湿布、投薬の他、理学療法、ブロツク注射が定期的になされたが、平成七年六月ころからのカルテ上「変化なし」の記載が続くだけで、特段の記載はない。

原告有紀は退院時において、主治医から「できるだけ積極的に活動し、時期をみて就労するように。」との指導を受けていたが、平成六年七月一一日から平成七年五月二一日までの三一五日間休業している。

2  判断

(一) 第一事故後の症状固定について

原告有紀にはレントゲン画像上及び神経学的異常所見がなく、実通院日数は症状の軽減に従つて、少なくなり、平成四年一一月一六日に診察を受けた後、通院を相当期間、中断していたものであり、平成五年六月二三日、「二日前から再び痛みが。」ということで、通院を再開したものの、右再開の理由は本人の愁訴だけに基づくのものである。原告有紀の第一事故と相当因果関係がある治療期間は平成四年一一月一六日までであり、このころ、第一事故による傷害は治癒していたものと認められる。

(二) 第一事故後の損害額

(1) 治療費 三三万二五六〇円(主張同額、争いがない)

(2) ポリネツク代 三三〇〇円(主張同額、乙三)

(3) 文書費 八〇〇円(主張同額、乙三)

(4) 通院交通費 六〇〇〇円(主張三万七五〇〇円)

証拠(乙二五)及び弁論の全趣旨によれば、大野記念病院には自家用車で通院し、駐車場代として一回当たり二五〇円を要したことが認められる。前記のように、症状固定日までの実通院日数は二四日であるから総額は六〇〇〇円(二五〇円×二四日)となる。

(5) 慰謝料 三五万円(主張一〇〇万円)

原告有紀の傷害の部位・内容・程度、通院期間・状況に鑑み、右金額をもつて慰謝するのが相当である。

(三) 第二事故後の損害額

(1) 治療費 六一万二八六一円(主張同額、争いがない)

(2) 通院交通費(タクシー代) 二万〇六五〇円(主張二万〇九〇〇円、乙一二ないし二四二六ないし二八)

(3) 通院交通費(駐車場代) 三万七五〇〇円(主張同額)

証拠(甲三、乙二五)及び弁論の全趣旨によれば、大野記念病院には自家用車で一五〇日通院し、駐車場代として一回あたり二五〇円を要したことが認められるから総額は三万七五〇〇円(二五〇円×一五〇日)となる。

(4) 休業損害 四九万七四〇八円(主張同額、争いがない)

(5) 慰謝料 七五万円(主張七八万円)

原告有紀の傷害の部位・内容・程度、通院期間・状況に鑑み、右金額をもつて慰謝するのが相当である。

(四) 第三事故後の症状固定について

原告有紀にはレントゲン画像上及び神経学的異常所見がなく、平成七年六月ころからは定期的に定型的治療を継続しているだけで、症状の変化はなく、右時点での他覚的所見も認められないことから、原告有紀の第三事故と相当因果関係がある治療期間は第三事故から一年を経過した平成七年七月一三日までであり、右時点で、労働能力に影響を及ぼすような障害は存しなかつたと認められる。

被告土師は「入院の必要性はなく、症状固定時期は平成六年九月末日である。」旨主張するが、前記認定のように、退院直後の平成六年九月二七日行われた下肢伸展挙上テストの結果は軽くはないもので、実際にも原告有紀は歩行にも困難を覚えていたことからすると入院の必要性を否定できず、同年一一月三〇日及び平成七年一月三一日の各下肢伸展挙上テストでも異常値を示しており、右各時期においても治療の必要性が肯定できる。

(五) 第三事故後の損害

(1) 入院雑費 九万四九〇〇円(主張同額)

1において認定したように原告有紀は七三日間入院し、一日あたりの入院雑費は一三〇〇円と見るのが相当であるから総額は九万四九〇〇円(一三〇〇円×七三日)となる。

(2) 通院交通費 五万六二五〇円(主張同額)

証拠(乙二五)及び弁論の全趣旨によれば、大野記念病院には自家用車で通院し、駐車場代として一回あたり二五〇円を要したことが認められる。証拠(甲五)によれば、症状固定日である平成七年七月一三日までの実通院日数は二二五日以上に及ぶから総額は少なくとも右主張額に達する。

(3) 休業損害 一三三万二八〇〇円(主張二三五万四四七二円)

前記のように、原告有紀は平成六年七月一一日から平成七年五月二一日までの三一八日間休業しているが、原告有紀の症状の推移、入通院状況、治療状況、仕事の性質に鑑みて相当休業期間は第三事故後六月であると認められる。

また証拠(甲一七)によれば、原告有紀の第三事故前三月間の給与所得は六六万六四〇〇円であるから、これを基礎収入として休業損害を算定すると右金額が求められる。

計算式 六六万六四〇〇円÷九〇日×一八〇日=一三三万二八〇〇円

(4) 慰謝料 一四〇万円(主張一八五万円)

原告有紀の傷害の部位・内容・程度、入通院期間・状況に鑑み、右金額をもつて慰謝するのが相当である。

(六) 損害の重複

前記のとおり第一事故による傷害は第二事故当時、既に治癒しており、第二事故後発生した損害については被告野口は責任を負わない。次に、第三事故前後を通じ、原告有紀は腰痛を訴えており、下肢伸展挙上テストの結果には大差がないことからして第三事故後の治療には、第二事故による受傷に対する治療が混在していると認められる。その割合は、傷害部位及びテスト結果の共通性の他、原告有紀本人の愁訴の内容が第三事故後、深刻となつたこと、第三事故の衝撃の方が第二事故より大きかつたこと、第二事故及び第三事故後の治療状況等に鑑み、第二事故が二に対し第三事故が八と認められる。したがつて、第三事故後に発生した損害について、各損害項目を通じて、その二割が第二事故と相当因果関係がある損害と認められる。この点に関し、原告有紀は、「治療が競合する部分につき、被告らが連帯して賠償する責任を負う。」旨主張しているが、第二事故と第三事故は日時、場所を異にしており関連共同性がないから、右原告有紀の主張は理由がなく、右のとおり、第三事故後の損害について被告新谷、被告土師が分割して責任を負うと解される。

なお、被告土師の主張する心因性による素因減額の主張は、原告有紀の心的傾向が治療の長期化をもたらしたことを認めるに足りる証拠がないので、これを採用できない。

四  争点4(原告修の損害額)について

六一万三六四三円(主張七八万九八六五円)

証拠(甲一六)によれば、原告修所有の第三原告車は第三事故により六一万三六四三円の修理代を要する損傷を蒙つたことが認められる。乙三八号証には修理費を七八万九八六五円、甲一五号証には修理費を三九万一四一〇円とする各記載が存するが、前者は修理後、一年以上を経て作成されたものであること、後者は外部からの観察による修理見積に過ぎないことから、いずれも採用できない。

第四賠償額の算定

一  被告野口の原告有紀に対する賠償額

1  第三の三の2の(二)の合計額は六九万二六六〇円である。

2  1の金額から前記第二の一の7(一)の損害填補額三三万二五六〇円を差し引くと三六万〇一〇〇円となる。

3  2の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、原告有紀が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告野口が負担すべき金額は三万円と認められる。

4  2、3の合計は三九万〇一〇〇円である。

よつて、原告有紀の被告野口に対する請求は、右金額及びこれに対する第一事故日である平成四年六月四日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

二  被告新谷の原告有紀に対する賠償額

1  第三の三の2の(三)の合計額は一九一万八四一九円であり、(五)の合計額は二八八万三九五〇円である。

第三の三の2(六)で認定したように、後者の損害の二割は第二事故と相当因果関係がある損害であるから、第二事故と相当因果関係がある損害額は二四九万五二〇九円となる。

計算式 一九一万八四一九円+二八八万三九五〇円×〇・二=二四九万五二〇九円

2  1の金額に第三の一で認定した被告新谷の過失割合八割を乗じると一九九万六一六七円となる。

3  2の金額から前記第二の一の7(二)の損害填補額一一二万二二六九円を差し引くと八七万三八九八円となる。

4  3の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、原告有紀が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告野口が負担すべき金額は八万円と認められる。

5  3、4の合計は九五万三八九八円である。

よつて、原告有紀の被告新谷に対する請求は、右金額及びこれに対する第二事故日である平成五年一二月一五日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

三  被告土師の原告有紀に対する賠償額

1  第三の三の2の(五)の損害のうち第三事故と相当因果関係がある損害は、消極損害(休業損害)について一三三万二八〇〇円の八割たる一〇六万六二四〇円となり、積極損害、慰謝料については一五五万一一五〇円の八割たる一二四万〇九二〇円である。

2  1の各金額に第三の二で認定した被告土師の過失割合八割を乗じると消極損害額は八五万二九九二円、積極損害及び慰謝料額は九九万二七三六円となる。

3  2の消極損害額から前記第二の一の7(三)の損害填補額中、休業補償給付金一一九万九三五八円を差し引くと消極損害は既にてん補されている。

他方、積極損害及び慰謝料額の合計九九万二七三六円から前記第二の一の7(三)の損害填補額中、日本火災海上保険株式会社からの填補額七七万七四二〇円を差し引くと二一万五三一六円となる。

4  3の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、原告有紀が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告野口が負担すべき金額は二万円と認められる。

5  3、4の合計は二三万五三一六円である。

よつて、原告有紀の被告土師に対する請求は、右金額及びこれに対する第三事故日である平成六年七月八日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

四  被告土師の原告修に対する賠償額

原告修の被告土師に対する請求は、第三の四の損害六一万三六四三円及びこれに対する第三事故日である平成六年七月八日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

別紙図面Ⅰ

交通事故現場見取図

別紙図面Ⅱ

交通事故現場見取図

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